今日は、英語発音指導が英語学習者に与える影響と題して、二回目の投稿を行います。
実は大学の卒業論文なのですが。
第一回めの投稿は以下のリンクからどうぞ。
リンク:英語発音指導が英語学習者に与える影響 第一回
2.先行研究
2.1 連続する発話
英語の発話において連続する会話はConnected Speechと呼ばれている。Connected Speechと共に用いられる用語に引用形式がある。引用形式はCitation Formと呼ばれ、ある単語を辞書で引いたときに示されるような音声表記に見られる。たとえばdeleteという単語を辞書で引いた場合に見られる/dɪlɪt/や/dəlɪt/という表記が引用形式である。ある文章を引用形式で発音する場合には辞書に表記されている通りに1つずつ発音すればよいが、連続した会話においてはそのように発音されない。なぜなら連続した会話では単語と単語が連続するので、語境界で様々な現象が起きるからである。その現象について、これから同化と脱落について日本語と英語の音節にも触れながら見ていくことにする。
2.2 日本語と英語の音節
内田(2003 :22)は、日本語の音節を「ん」と「っ」の場合を除き、「子音+母音」で表している。一方で英語の音節は日本語の音節よりも複雑であり、以下のようにまとめている。
以上、英語発音指導が英語学習者に与える影響、第二回目の投稿でした。
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| 図2:英語の音節 |
英語は母音・子音の数とその組み合わせの数が日本語よりもずっと多い。このような音節構造の違いから考えると、日本人の話す英語は子音の後に母音が挿入されがちなのではないかと考える。教育実習期間中に中学三年生を対象とし、録音をしたものを以下に示す。
上のスペクトログラムと波形から、what, aboutのどちらとも[ t ]の後に母音が後続していることがわかる。日本語は「子音+母音」という音節の特徴を持つため、日本人英語学習者の話す英語に「子音+母音」という特徴が反映されるのではないか。もし反映されているとすればそれを指導することで、母音や子音に変化が生じるのであろうか。この論文ではいくつかある英語的特徴の中で、連続した発話における同化現象と脱落についてみていくことにする。
2.3 同化
2.3.1 同化の定義
同化現象には様々なタイプがあるが、本論において扱う同化は、音を連続して調音する際に音が近隣の音の影響を受ける現象を同化として扱う。
2.3.2 日本語の同化
日本語にも後続する子音にその前の音が影響を受けて変化するということはあるのだろうか。川越(1999)は、日本語のくだけた会話で「お前」が「オメー」になる例をあげている。また、/ n /の調音位置が次の子音に合わせて調整される例として、「ほんま」・「ほんと」・「ほんき」をあげており、それぞれの/ n /は[m], [n], [ŋ]として発音される。
2.3.3 閉鎖音の同化
同化はその度合いによっていくつか分類することができ、そのひとつに逆行同化(Regressive Assimilation)がある(小栗, 1964)。逆行同化では、後続する音にその前の音が同化する。また、逆行同化の一つに閉鎖音の同化というものがあり、これは閉鎖音どうしが衝突する場合に起きるものである。その例を下に示す。左の発音記号はひとつずつはっきりと発音したものであるのにたいして右側の発音記号はconnected speechで発音したときのものである。[ ̚ ]は不完全な開放を表す音声記号である。
(1) a. that pen [ðæt pɛn] [ðæp̚pɛn]
that boy [ðæt bɔɪ] [ðæp̚bɔɪ]
that man [ðæt mæn] [ðæp̚mæn]
that cup [ðæt kʌp] [ðæk̚kʌp]
that girl [ðæt gɚːl] [ðæk̚gɚːl]
b. good pen [gʊd pɛn] [gʊb̚pɛn]
good boy [gʊd bɔɪ] [gʊb̚bɔɪ]
good man [gʊd mæn] [gʊb̚mæn]
good concert [gʊd kɑːnsɚt] [gʊg̚kɑːnsɚt]
good girl [gʊd gɚːl] [gʊg̚gɚːl]
(1)aではthatの/ t /が、(1)bではgoodの/ d /が、それぞれ後続する音に同化している。この場合、(1)aにおいて[ t ]がそれぞれ[p, k]に変化しており、(1)bにおいては、[ d ]の音がそれぞれ[b, g]に変化している。[ t ]は歯茎で発音するのにたいして[p, k]はそれぞれ両唇と軟口蓋で発音される。また、[ d ]は歯茎音であるのにたいして[b, g]はそれぞれ両唇、軟口蓋で作られる音である。このように閉鎖音どうしが衝突すると、はじめの閉鎖音の調音位置が変化することがある。Gimson(1980)では、語末/t, d, n, s, z/は後続する語頭子音の調音の位置に同化しやすいことを「語末の歯茎音の不安定性」と表現している。
2.3.4 口蓋化
同化の一種に口蓋化という同化現象がある。口蓋化は二つの音が融合する同化である。口蓋化の例を以下に示す。
(2) want you [wɑːnt juː] [waːntʃə] not yet [nɑːt jɛt] [nɑːtʃɛt]
last year [læst jɪɚ] [lɑstʃɪɚ] would you like [wud juː] [wʊdʒə]
miss you [mɪs juː] [mɪʃə] in case you [ɪn keɪs juː] [ɪŋkeɪʃə]
has your letter come? [hæz juɚ] [hæʒɚ] as yet [æz jɛt] [əʒɛt]
上記の句は口蓋化がおき、/j/が消滅して新しく/tʃ/, /ʃ/の音ができる。このように語境界の二つの音が作用する同化を相互同化という(川越:1999)。
2.4 脱落(Elision)
Gimson(1980)は、速くくだけた話し方において音が語境界で脱落することがあるとしている。脱落するような場合をまとめると、以下のようになる。
/-st, -ft, -ʃt, -nd, -ld, -zd, -ðd, -vd/+子音
/-pt,- kt,- tʃt, -bd, -gd, -dʒd/ +子音
二音節の否定辞/ -nt / +子音or母音
上記以外の条件でも脱落することはあるけれど、必ず脱落がおこるとは言い難いようである。また、上記の条件であるとしても脱落が必ず起こるというわけではなく、これらの条件下では起きやすいというにとどまるようである。
日本語の脱落に関して、川越(1999)では「消去」の例として、ワタシ(私)[watɑʃi]がアタシ[atɑʃi]なる例や、ナニカ(何か)[nɑnika]がナンカ[nɑŋka]になるといった例をあげている。
2.5 英語学習者の到達基準について
世界中で話されている英語であるが、第二言語として英語を学習する場合、どの程度まで発音を向上させるべきであるのだろうか。その指標がいくつか思案されており、ここではその到達基準について少し触れようと思う。清水(2011)では、国際的なコミュニケーションの手段としての英語を「国際語としての英語」と位置づけ、日本語母語話者にたいして発音面でのガイドを試みている。その中で、Gimson(1980)では、発音教育にどれくらいの時間をかけるべきか、そして十分なコミュニケーション力といえる到達度の度合いを教師と学習者両方が考える必要があるとしている。また、学習者の目標とする発音として、①RP and Regional RPs, ②American English, ③International English(2)という3つの基準が設けられている。
(2) ①Regional RP→ 地域の発音の特徴をある程度含んだRP
②American English→様々な母語話者の英語の特徴の混合物から形成されたモデル
③International English→国際的な場面で必要に応じて随時、非母語話者同士のコミュニケーションに用いられる英語をさす。
World Englishとして英語の影響力がますます進むなか、(3)NNSどうしのコミュニケーションが頻繁に行われている現代社会において、どの程度のレベルを到達基準にすればよいのか明らかにすることは重要な事項ではないだろうか。Gimson, Cruttenden, Jenkinsともに、NNSによる同化や脱落の習得には消極的ではが、本論ではより(4)NSのような発話を目指すことを念頭に、同化や脱落の指導が学習者にどのような影響をもたらすのかを検証していく。
2.6 / t /の脱落に関する実験
松井(1998)は、/ t /が脱落する際にかかる母音の継続時間について、日本人と英語母語話者両方のデータに基づいて検証している。また、以下の例文を使用し、指導前と指導後におけるcanの母音の継続時間についての変化を測定している。
1. I can go. 2. I can’t go. 3. I can tow.
4. I can’t tow. 5. I can bowl. 6. I can’t bowl
これらの例文の発話を録音し母音の長さを測定した結果、英語母語話者のデータはcan’tの方がcanよりも4倍の母音継続時間を示した。一方で日本語母語話者が発音するcan’tの母音継続時間は、canの1.7倍であった。このことから、日本人母語話者の方が母音にかける長さは短いことがわかる。そして、日本語母語話者に指導をした後測定した結果、よりネイティブの長さに近くなった。
この実験結果を考慮して、英語に見られる同化や脱落といった現象も同じように音声的、視覚的なインプットを加えることでネイティブの発音に近づくことができるのか、次の章で見ていくことにする。
(3)NNS : non native speakerの略。ある言語の母語話者ではないことを示す。
(4)NS : native speakerの略。ある言語の母語話者であることを示す。
以上、英語発音指導が英語学習者に与える影響、第二回目の投稿でした。

